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(2015.5.22 管理人 記)

2011年05月28日

飛鳥水落遺跡

 甘橿丘の東のふもとに、飛鳥水落(みずおち)遺跡があります。『日本書紀』斉明天皇6(西暦660)年に「又、皇太子、初めて漏剋を造り、民に時を知らしむ。」の記載があります。皇太子は後の天智天皇こと中大兄皇子。漏剋は水時計のこと。つまり日本で最初の時計台。

 明日香村は掘れば何か出てくるので、建物を建てるときは必ず調査が行われます。水落遺跡も、家を建てる予定で発掘調査をしたら「出てしまった」もの。
 石を貼り付けた一辺22.5m・高さ1mのほぼ正方形の土台。5×5列の礎石。特筆すべきは、銅管や木樋、漆を塗った木箱の断片が出てきたこと。いったい、これは何なんだ!?

 こちらは飛鳥資料館に展示されている銅管。右の写真には鉄釘も写っています。
 銅管や木樋は水の配管、漆の木箱は水のタンクと推定され、これは日本書紀に記載された「漏剋」の遺構だろうということになりました。

 漏剋は「漏刻」とも書きます。写真はかつてつくばエキスポセンターに展示されていた漏刻の復元模型。水落遺跡にあったものを想定したもので、人の背丈よりはるかに大きなもの。上の水槽から順番に水が落ちて、一番下の水槽に貯まった水の量で時間を計る仕掛けです。
# この復元漏刻は既に撤去されています(写真は2005年8月22日撮影)。

 飛鳥資料館にある水落遺跡の復元模型。石貼りの土壇の中央に、漏刻を置いていた様子が分かります。ボタンを押すと発光ダイオードの点灯で水の流れが示されますが、ゆっくりしていて、ちょっと飽きます。ただし実物は一日かけて水を落とすのですから、じっと見ていてすぐに動きが分かるものではなかったはずです。


 建物の復元想定図。左は飛鳥資料館の展示室内のイラスト、右は飛鳥資料館の飛鳥京復元模型のもの。分かっているのは柱の間取りだけなので、屋根の形や周囲の建造物はずいぶん違います。共通しているのは二階建ての建物ということで、一階に漏刻、二階に時を報せる太鼓や鐘が置かれていたとされています。

 左写真が水落遺跡中央部。円柱が建物の柱の位置。地面を走る木の板が木樋の位置で、銅管が出た場所にはパイプも添えてあります。中央の黒御影石の窪みがおそらく水を受ける場所で、この辺りに漏刻がありました。
 右写真は土壇の北西隅。60〜70cm掘り下げた区画に、礎石が顔を出しています。本来の遺構面はこの高さ。盛り土がされているのは遺構の保護のためでしょう。礎石をつなぐように石が並んでいるのは、地震等で礎石がずれるのを防ぐため。堅固なつくりです。

 ところで、『日本書紀』には漏刻を記載した場所が2つあります。一つ目は先ほど紹介した斉明天皇6(西暦660)年五月是月条。これが水落遺跡の漏刻。
又皇太子初造漏剋、使民知時。
 又、皇太子、初めて漏剋を造り、民に時を知らしむ。
 もう一ヶ所は、天智天皇10(西暦671)年。
夏四月丁卯朔辛卯、置漏剋於新台、始打候時。動鐘鼓、始用漏剋。此漏剋者天皇爲皇太子時、始親所製造也、云々。
 漏尅を新しき台に置く。始めて候時を打つ。鐘鼓を動す。始めて漏剋を用いる。此の漏剋は、天皇の皇太子に爲す時に、始めて親ら製造りたまふ所なりと、云々。
 この間、667年に近江大津宮への遷都が行われています。だから671年の漏刻は大津に置かれたもの。660年に皇太子時代の中大兄皇子がつくった漏刻を大津の新しい台に移設したようにも取れます。重要なのはこちらの記事の「四月丁卯朔辛卯」。干支で日付を表しているのですが、これが旧暦4月25日。現在の暦に直すと6月10日で、これが「時の記念日」となっています。

 「日本書紀の660年の記事は月だけで日にちが書いてなのです。今の暦に直すとおそらく同じ6月になるのですけれど」とは、明日香村埋蔵文化財展示室の解説ボランティアの方。もし660年の記事に日付が書かれていれば、時の記念日は違う日になっていたかもしれません。
 飛鳥の漏刻跡も半ば偶然に見つかったのですが、大津は「完全に市街化してしまってますから、まず出てこないのではないでしょうか」とのこと。

 明石市立天文科学館の玄関前、東経135度子午線上にも石造りの漏刻が置かれています。
 天文科学館の開館記念日は6月10日。もちろん時の記念日に合わせたもの。
 明石の「時」は、時刻を巡る日本の古代史にもつながっています。


posted by ふくだ at 23:46| Comment(3) | TrackBack(0) | 地図と地理と遠出 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おお素晴らしい!

凄い技術だ。やはり大陸伝来かな?
自分の目で見てみたい。
Posted by 川風遊人 at 2011年05月30日 07:39
おもしろーい。
ここも見てみたーい。
Posted by api at 2011年05月31日 09:53
関西へお越しの際はぜひぜひ。
水落遺跡の出土品が展示してある飛鳥資料館とセットがおすすめ。1kmくらいしか離れていないので、歩いて15分弱かな。

飛鳥資料館には先の記事のキトラ古墳壁画の復元陶板もあります。
Posted by ふくだ at 2011年05月31日 20:14

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