
カール・ツァイスII型プラネタリウム25号機。戦災を乗り越えた投影機は戦後も働き続け、1989年に電気科学館が閉館するとともに引退しました。この間の可動日数52年79日は、明石のツァイス・イエナUPP23/3型機(現役)に次ぐ記録です。
投影機はその後、電気科学館からバトンを受けた中之島の大阪市立科学館に静態保存され、大阪市の指定文化財となっています。
2013年3月17日、電気科学館の開館75周年を記念して、スペシャルナイト「“わが町”の天象儀」と題したイベントが行われました。
引退以来、静かに時を過ごしてきた投影機に、25年ぶりに灯をともし、一夜限りの「復活」に挑もうというのです。
プラネタリウムドームでは、電気科学館のプラネタリウム解説員を長く務めた大阪市立科学館の加藤館長の講演会。そして織田作之助の小説を映画化した「わが町」の上映会。劇中に現役当時の電気科学館のプラネタリウムが登場します。
チケットは事前に完売。
年齢層は比較的高めですが、どうみても電気科学館をしらないであろう若い世代もチラホラ。
私は関東生まれ育ちなので、電気科学館には行ったことがありません。天文雑誌で「日本最古のプラネタリウム引退」という記事を読んだことだけ覚えています。まさかその投影機が星を映す場面に立ち会えようとは思いませんでした。

大勢が入れる場所ではないので、数十人ごとのグループに分けて、順番に解説を受けます。
解説は嘉数学芸員。投影機の電球はすでに灯されているとのこと。
え、どこ!? と見渡しますが、プラネタリウムの星はあまりにか細い光で、ロビーの照明を落とさないと分からないのです。
合図とともに照明が落とされます。
あたりいっぱいに広がる満天の星……を想像したのですが、少し勝手が違います。ロビーに通じる階段の明かりが入って、薄明かりの中での星になります。そして当たり前のことながら、ドームではないので、星座の形がきれいに再現されません。恒星投影球のピントは電気科学館の18mドームに合わせたままなので、それよりはるかに近い距離にある壁や天井では、星が点像にならず、中の電球のフィラメントの形に膨らんでいます。
それでも。
南天・北天の2つの恒星投影球を備えたダンベル状のツァイスII型は、今に通じるプラネタリウムの一つの完成形。日本、いやアジアで初めて地上に星空を再現した投影機が、こうして今もまた、人々に星のかがやきを投げかける。
嘉数さんの指すポインターを追うと、歪んだ形ながらも、少しずつ星座がわかってきます。北斗にオリオン、南天の南十字星。この投影機は、春の空を映した姿で時を止めていたのか。最初は家庭用プラネタリウム的な雰囲気だったのが、じわじわと、ツァイスのつくる星空の世界が蘇ってきます。こんな光を映していたんだ。
# 冒頭の写真は後の撮影タイム時に撮影。クリックで拡大します。

ドームの中では往時を振り返るスライドが映されていました。写真は戦時中のポスターで、昭南島はシンガポールのこと。このころから春先に南天のプログラムを上映していたのですね。