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(2015.5.22 管理人 記)

2005年08月27日

星に願いを

 学生の時に、学園祭でプラネタリウムをつくったことがあります。

 正確には、プラネタリウムと称するのは、ちょっと無理のある代物です。ピンホール式のプラネタリウムに納得のいかなかった私は、日周運動も緯度変化も歳差運動も無視して、つまりは星を動かすのをあきらめて、エアドームに直接、LED(発光ダイオード)を埋め込んだのでした。投影した星ではなく、星がじかに光る人工の星空をやってみたかったのです。

 再現した星の数は800個。これはひとえに経済的制約からきたものです。なにせ星一つに最低10円はかかるのです(実際は8円に抑えた)。一等星用の高輝度LEDなんて一つで100円以上。一万円分もLEDを買う客など、そんなにいなかったのではないでしょうか。

 星の色もスペクトル型で分けましたが、当時は青色LEDが出回りはじめたばかりで、1つ600円とか800円もした時代でした。とてもそんなものを購入する余裕はなく、青い星は緑のLEDになってしまいました。

 エアドームの素材に適当なものが見つからず、壁紙用のビニルシートを転用しました。これに星座を描き、LEDを差し込んでは裏から半田付け。夜間に大学の廊下でやっていたのですから大らかなものです。昼間はどこにしまっていたのでしょう?

 エアドームを膨らます送風機は、大学構内に落ちていた換気扇や扇風機を拾って調達しました。LEDを点す電源は、ゴミ捨て場のビデオデッキを分解して頂戴しました。

 ほとんど思いつきで始めた企画でしたが、友人たちがあちこち手伝ってくれました。隣の大学から高校の後輩もかけつけてくれました。

 学園祭当日。実はエアドームの入口が出来ていませんでした。エアロックの構造をまるで考えていなかったのです。ファスナーで開閉できるなんて大甘なことを考えて、当日の朝、縫いつけたファスナーごと気圧差で吹き飛びました。
 電気を通すと、800個のLEDが一つも点灯しません。どこかがショートしているのですが、半田付けの箇所は膨大です。すぐに異常箇所は分かりません。

 ぺちゃんこにつぶれたドームの前で、呆然としながら学園祭一日目は過ぎました。

 その夜のこと、工学系の院の先輩が、テスター片手にやってきました。千数百もの半田付けの箇所を、全てチェックしようというのです。いつ終わるともない地道な作業が始まりました。私はそれまでの疲れもあって、その晩は眠りに落ちてしまいました。先輩方はほとんど徹夜で、ショート箇所の捜索をしてくれました。
※ちなみに私、人文系の史学のコースで地理などを学んでおりました。よく理工系と間違えられるんですけどね。

 2日目朝。電気系統の修理は終わりません。私はエアドームの出入り口の改修にかかりました。吹き飛ばされたファスナーをガムテープで封鎖し、教室の机をドームにガムテープで密着させ、そのまわりをシートで覆ってトンネルをつくりました。トンネルの端には拾ってきたベニヤ板で即席のドアをつくります。ドアの外側はイスを重ねた重石で封鎖。机の下をくぐり抜ける狭い出入り口になりましたが、こんな即席の仕掛けでドームはなんとか膨らむようになりました。

 ドームが膨らんで、電気回路のチェックも加速します。その日の昼前に、やっと、なんとか、ドームの半分だけ、LEDが灯るようになりました。

 作業中の教室に、「プラネタリウムを見たい」という女の子がやってきたのはそんな時でした。

 「実は故障していて、まだ修理しているんです。星も半分しか映らないんです」

 正直にそういうと、それでも彼女は、投影を見たいというのです。
 半分だけの星空で、たった一人の投影が始まりました。投影の最中も、ドームの外では修理が続いています。とにかく中途半端なものしか見せられなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
 何をしゃべったのかも、まるで記憶にありません。ただ投影終了後、謝りながら送り出した私に、少しだけほほえんでくれた彼女の後ろ姿が、妙に印象に残っています。

 その時です。

 「灯いたぞ!」

 ドームの中に、全ての星が灯ったのです。
 学園祭2日目のお昼過ぎ。期間半分を残して、ようやくなんとか、「形」になりました。

 直径5mの小さなエアドームに入れるのは十数人。机の下のトンネルをくぐり抜けて、あやしげなビニルシートの張りぼてのドーム。片隅では壊れかけた換気扇と扇風機が音を立てながら空気を送り込んでいます。出入口のエアロックが不完全なので、観客の出入りの度にドームが凹むのですが、子どもたちにはそれが人気だったようです。

 合図で部屋の照明を落として、真っ暗になる室内。一息置いて、星空のスイッチを入れます。

 「わぁっ!」

 と沸き上がる歓声。これが聞きたくて、この瞬間がうれしくて、たまりませんでした。

 天文同好会とか、そんな集まりではありませんでしたから、解説者の代えがいません。ドームの外に出る暇もないくらいで、どんな呼び込みをしていたのか知る由もないのですが、なぜか順番待ちまで出来ていて、とにかく5時間以上、ひっきりなしにお客さんがやってきて、LEDの星空の下、ひたすらしゃべり続けたのでした。

 部屋の灯りを灯したとき、

 「わしゃ、今までこんなきれいなものを見たことがない」

 と手を取ってよろこんでくれたおじいさんとか、とにかくお客さんの反応がいいのがうれしかった。

 ほんと、友人たちには頭が下がりました。みんな忙しい人たちばかりなのに、あちこちから駆けつけて、手伝ってくれたんです。
 「一緒にやってるのが楽しいから」やっているんだといってくれた人がいます。その時はそんなものかと思ったのですが、今にして思うと、こんなにありがたい話はないですよね。

 だからですね、ドラマを見たときに、不覚にも涙ぐんでしまいました。いろんな人に支えられて、生きてるんですよ、みんな。プラネタリウムや星のことじゃなくて、そんなところで感動してしまいました。


posted by ふくだ at 03:04 | TrackBack(1) | プラネ/天文台/科学館 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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ぼくたちの「星に願いを」
Excerpt: みんな、見てたんだ。そして、プラネタリウム、作ったことがあるんだ。
Weblog: この街の空にも星は瞬く
Tracked: 2005-08-27 15:58
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